こんにちは、なおじです。
今日は「明治時代の男性と恋愛」というテーマで、家父長制のなかでなぜ男たちは感情をあまり語らなかったのかを整理してみます。
『ばけばけ』第43話で描かれた、おじいさまの”まともすぎる恋愛トーク”の背景にもつながる話なんですね。

この記事でわかること
- 明治民法が「家」を単位とした社会をどう形作ったのか
- 家父長制下で、なぜ男性は感情を語らなくなったのか
- 西洋の「自由恋愛」と日本の「家を守る」価値観のあいだのジレンマ
- 明治の父親・祖父世代に見える「未成就の恋」とは何か
- ドラマや小説を読む際に、明治男性の心理をどう理解するか
明治民法と家父長制の枠組み
まず押さえておきたいのは、明治日本が「家」を単位とした社会だったという点です。
明治民法は、近代的な法体系を取り入れつつ、「戸主」を家の長とし、その権限のもとで妻や子どもの身分や相続が決まる家父長制を制度として整えました。
表向きには一夫一婦制を採用しながらも、実際には戸主である男性に強い権限が集中していたのです。
そのため、「家に迷惑をかけない」「家の名を汚さない」が男性の第一義になりがちだったわけです。
【表題】明治時代の家制度と恋愛観のポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 家制度 | 戸主中心の家父長制が制度化され、家の存続が最優先された。 |
| 結婚の目的 | 個人の恋愛よりも「家の経済基盤強化」「家格維持」が重視され、お見合い結婚が一般的だった。 |
| 男性役割 | 家族を養い、家名を守ることが第一とされ、「弱音を吐かない」「感情を表に出さない」ことが美徳になりやすかった。 |
| 恋愛観の揺らぎ | 西洋的な恋愛小説や思想の流入で「好きな相手と結婚したい」という価値観も広がり、家父長制とのあいだでジレンマが生じた。 |
男性の沈黙はどこから来たのか
では、なぜ明治の男性は自分の感情をあまり語らなかったのか。
一つは、「感情よりも行動で示すのが男らしさ」という価値観です。武士道の名残も相まって、「愚痴を言わない」「弱音を吐かない」「家族の前で取り乱さない」ことが美徳とされました。
もう一つは、家の長男であれば「家を継ぐ者」として、幼い頃から「泣くな」「男だろう」としつけられやすかった点です。
結果として、心の中には悩みや迷いがあっても、食卓や家族の前では多くを語らず、ぽつりと一言だけ本音をにじませる、というスタイルが定着していきます。
恋愛観の変化と”自由恋愛”のジレンマ
明治は、「家父長制」と同時に「自由恋愛」という新しい価値観も入ってきた時代でした。
西洋から入ってきた恋愛小説や思想の影響で、「好きな相手と結婚したい」という願いは、若い世代を中心に確実に広がっていきます。
しかし現実の結婚は、依然として親や家が決める「お見合い婚」が主流でした。
とくに地方や旧士族の家では、「家格の釣り合い」「家同士の利害」が重視され、男性自身の恋心は「若気のいたり」「胸の中だけにしまっておくもの」と扱われがちだったのです。
自由恋愛を理想とする近代思想と、「家を守る」ための旧来の価値観。
この板挟みのなかで、多くの男性は自分の恋心を飲み込み、「家のために」沈黙を選ばざるをえなかった面があります。
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父親・祖父世代に見える”未成就の恋”
ドラマに出てくる明治の父親や祖父が、若者に対して急に”妙に深い”恋愛論を語り出すことがあります。
普段は無口で現実的なのに、ふとした拍子に「若い頃な…」と口を開く、その一瞬に、彼ら自身の”未成就の恋”がちらりと見えるんですね。
それは、多くの場合「語り尽くせなかった過去」でもあります。
- 家の事情で諦めた初恋
- 自分の思いより家の意向を優先して決めた結婚
- 本当は伝えたかったが、言葉にできなかった感情
こうした経験は、子や孫に対して「恋をするな」と言わせることもあれば、逆に「お前は悔いのないように生きろ」と語らせることもあります。
沈黙してきた世代だからこそ、時おりこぼれる一言が、重く響くわけです。
明治の男性像をどう読むか
現代の感覚から見ると、「なぜ素直に気持ちを言わないのか」「なぜ娘の恋を認めないのか」と感じる場面も多いと思います。
しかし、その裏には「家を守らねばならない」「家族を食べさせねばならない」という、当時の男性に課せられた重い役割があるのです。
感情を言葉にしないことが、必ずしも”愛情がない”ことを意味しないのが、明治男性の難しいところです。
むしろ、何も言わずに背中で示そうとする不器用さこそが、彼らなりの愛情表現だった、と見ることもできるでしょう。
ドラマや小説を楽しむための視点として
明治時代を描いたドラマや小説に出てくる「無口な父」「含みのある祖父」は、家父長制と自由恋愛のはざまで揺れた世代の象徴です。
彼らの一言一言には、「家」と「個人」のどちらも捨てきれない葛藤が、ぎゅっと凝縮されていると考えると、セリフの重みが変わって見えてきます。
沈黙している時間、視線の動き、茶碗を持つ手つき…。
そうした細かな所作に、明治男性の「語られなかった本音」が宿っている、という視点で見てみると、作品全体の味わいが一段深まるはずです。
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